新型コロナウイルスの影響により、システム開発業界における慣習が大きく一変しました。
従来根強かった常駐型のシステム開発業務も、テレワークの普及によって大幅に変革されました。さらに、近年は派遣法や民法の改正などもあり、契約関連の知識の整理がますます重要となっています。
まず、「業務委託契約」という言葉は、民法や商法には正式には存在しない法律用語です。実務では、請負契約、準委任契約、または委任契約のいずれかを指す言葉として、または総称として使われることが多いです。このため、契約書に「業務委託契約」と書かれていても、その内容をよく確認することが重要です。
請負契約は、特定の仕事を完成させることを約束し、その成果物に対して対価を支払う契約です。この契約では、仕事の完成が重要で、受託者は成果物に対して責任を負います。
2020年の民法改正により、「瑕疵担保責任」という用語は廃止され、「契約不適合責任」という表現に変更されました。「瑕疵担保責任」と記載されている契約書は見直す必要があります。
「契約不適合責任」とは、お客様が要求したシステムが完全には実装されておらず、または重大な欠陥が存在するなど契約内容通りではない場合の責任を指します。
システム開発における請負契約の不適合責任を追求する場合、具体的な内容や対応方法は以下の通りです。なお、以下は民法の定めどおりの場合を記載していますが、契約の中で民法と異なる合意をしたときは、当該合意の内容が優先的に適用されるのが原則です。
1.追完請求(修正・改善の請求)
発注者は、開発されたシステムが契約内容に適合していない場合、受託者に対して修正や改善を求めることができます。具体的には、以下のような対応が含まれます。
2.代金減額請求
システムが契約内容に適合しない場合、受託者の責めに帰すべき事由がある場合は、その不適合部分に対して代金の減額を請求することができます。例えば、開発された機能の一部が使えない場合、その部分に相当する代金を減額することが求められます。
3.損害賠償請求
不適合によって発生した損害に対して、発注者は損害賠償を請求することができます。システム開発の場合、以下のような損害が含まれることがあります。
4.契約解除
システムが重大な不適合を有し、修正や改善が不可能または著しく困難な場合などには、発注者は契約を解除することができます。ただし、この場合も事前に受託者に対して不適合の通知と改善要求を行うことが求められます。なお、修正や改善が不可能であり、その状態では契約をした目的を達することができないときなどは即時解除も可能です。
準委任契約は、特定の事務処理を依頼し、その対価を支払う契約形態です。通常の委任契約と異なり、法律行為以外の事務処理を対象とします。2020年の民法改正により、準委任契約には履行割合型と成果物型の2つのパターンがあります。
成果物型の準委任契約と請負契約の違いは以下の通りです。
また、システム開発の実務で「委任契約」という名称を使用する際は、実際には「準委任契約」であることがほとんどですので注意が必要です。類似する用語として、「システムエンジニアリング(SES)契約」や「構内請負契約」がありますが、これらも民法や商法には正式に存在しない法律用語です。
委任契約は、弁護士や司法書士などに法律業務や法律行為に関する事務処理を依頼し、その対価を支払う契約形態です。システム開発業界では、準委任契約のことを「委任契約」と略して使うことがあります。なお、民法上、委任契約に係る規定が準委任契約に準用されますので、委任契約であれ準委任契約であれ大きな違いはありません。
一般派遣契約は、派遣元が派遣社員を派遣し、派遣社員が派遣先の指揮命令のもとに業務を行う契約形態です。これにより、派遣先は必要なスキルを持つ人材を一時的に利用することができます。なお、特定派遣契約は2015年に廃止されました。
違法派遣とは、労働者派遣法に違反する派遣形態のことを指し、法律によって禁止されています。以下は代表的な違法派遣の形態です。
1.二重派遣
2.派遣期間の超過
3.派遣禁止業務
4.偽装請負:
偽装請負とは、契約書上は請負契約または準委任契約としているにも関わらず、実際には発注者から指揮命令を受けて業務を行うことを指します。特にシステム開発業界では、いまだに問題視されています。偽装請負を行うと、以下のような罰則や法的リスクが生じる可能性があります。
職業安定法第44条(労働者供給事業の禁止)への抵触
労働者派遣法への違反(二重派遣の禁止)