2025年のエンジニア単価は、前年比で1%~3%の上昇となり、引き続き上昇基調にあります。ただし、2024年(前年比3%~7%上昇)と比較すると緩やかになっており、2023年にピークを迎えた単価上昇率が徐々に落ち着き始めている様子がうかがえます。新型コロナウイルス感染症拡大以降、急速に進んだDX(デジタルトランスフォーメーション)への投資熱が一段落し、多くの企業がIT予算を慎重に見直す動きが強まっていることも背景にあります。また、2025年は関税障壁の高まりを受け経済全体の不確実性が増しているため、企業がIT投資に対してより慎重な姿勢をとる可能性が出てきています。
単価が上昇している背景には、公正取引委員会が推進する「価格転嫁の円滑化施策」の影響が大きいと考えられます。人件費などのコスト上昇分を取引価格に反映する動きが企業間で顕在化し、多くの企業が積極的に単価交渉を進めています。加えて、2025年の春闘では昨年の5.1%を上回る5.5%~6.0%程度の賃上げが見込まれており、今後さらに価格調整が活発化する可能性があります。
また、富士通がメインフレーム事業を終了することや、オフショア開発から国内回帰への動きが強まっていることも、エンジニア単価の変動要因として注目されています。特に、円安やカントリーリスク、コミュニケーションの難しさなどオフショア開発特有のリスクを回避するため、多くの企業が国内のエンジニアリソースを再評価しています。
さらに、政府が進める行政のデジタル化の一環として、2021年9月に設立されたデジタル庁を中心とした自治体システムの共通化(標準化)に向けて、公共案件が安定的に供給されているため、公共案件に強い企業を中心に高い単価が維持されています。
内閣官房:パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化の取組について
アナリスト系(要件定義)は、前年比5%~6%程度と比較的高い上昇率を示しています。DXやAIの活用が進むなか、高度な要件定義スキルを持つ人材の需要は増大しており、供給不足が顕著になっていることが要因と考えられます。システム運用系は前年比でマイナス傾向が見られます。運用業務の自動化・効率化やBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)の浸透によって、従来型の運用業務が縮小傾向にあることが理由と考えられます。ただし、クラウド対応やDevOpsなど、新しい運用スキルを備えた人材の単価は引き続き上昇しており、技術力の差による単価格差が拡大している状況です。
首都圏の発注企業がニアショア開発を利用した場合、単価は依然として20%~30%ほど割安になる傾向があります。特に地方都市に拠点を構えるニアショア企業の技術レベルや対応力が向上しており、首都圏企業が積極的にニアショア活用を検討するケースが増えています。コストメリットの確保や開発要員の迅速な確保、災害リスクの分散など、多様な目的に対応できることから、ニアショア活用は今後も有力な選択肢として定着していくとみられます。
公正取引委員会の方針や春闘の結果により、エンジニア単価は引き続き変動する可能性があります。また、AIやDXなどの技術革新が進むにつれ、一部の業務は自動化によって需要が減少する一方、高度なスキルを持つエンジニアへのニーズはさらに高まると予想されます。
また、データエンジニアやセキュリティエンジニアなど専門性の高い役割についても、単価の上昇が著しい傾向にあります。需要と供給のアンバランスから単価の高止まりが続く可能性もあります。
こうした変化が進むなか、エンジニア単価の動向を的確に把握し、適切な開発体制やスキルの強化を図ることが重要と考えられます。今後も市場動向を注視し、適切な人材活用とコスト調整を戦略的に行っていく必要があると考えます。